わたしには、兄がいます。
兄はやさしい人で、以前のわたしは、かなりのお兄ちゃんっ子でした。
恋愛相談にもよく乗ってくれた、穏やかで頼もしい兄。
お互い日本を離れ、異なる国で暮らしていたこともあって、
「便りがないのが、良い便り」と、
しばらく連絡を取り合わない時期もありました。
兄が日本に生活の拠点を移して、数年が経った頃。
癌であることがわかりました。
今すぐにでも駆けつけたいのに……
わたしは会いに行くことすらできない……。
かなり難しい手術を受けると聞き、
手術の数日前から、わたしは もどかしさで居ても立ってもいられなくなり──
心ここにあらずの状態になりました。
6時間の手術が始まったのは、日本時間で午前10時。
時差の関係で、わたしの住んでいる場所では深夜2時でした。
眠れるはずもなく、ただただ祈ることしかできませんでした。
でも、わたし ひとりの祈りだけでは、心もとなくて。
そうかといって、こんな時ばかり 神様にお願いするのも なんだか気が引けて……
「お兄ちゃんとわたし、共通につながっているものって、なんだろう?」
と考えはじめました。
「そうだ! 天国のおじいちゃん、おばあちゃんに、兄を守ってもらおう!」
「それから、ひいおじいちゃん、ひいおばあちゃんにも! 仏壇のそばにある白黒写真でしか知らないけれど、ひ孫は絶対かわいいはず!」
と、次々にひらめいたのです。
あれ? もしかして……
兄とわたしを見守ってくれているご先祖さま全員に、お願いすればいいんじゃない!?
そうして、わたしは祈りはじめました。
ご先祖さま
今、あなた方の子孫のひとりが、難しい手術に挑んでいます。
あなた方の、かわいい子孫である彼を、どうか、どうか 守ってください。
どうぞ、よろしくお願いします。
ふと、
「ご先祖さまって何人くらい いるんだろう?」という疑問がわき、
調べてみました。
祖父母4人、曽祖父母8人…
10代さかのぼると1024人!
20代前までさかのぼると、約100万人。(織田信長が生きていた時代あたり)
さらにさかのぼって40代前は、なんと約2兆人!(紫式部が生きていた平安時代の頃)
この単純計算では、当時の世界人口を超えてしまうので、「先祖の数パラドックス」といわれているそうです。
このパラドックスが起こるのは、「同じ先祖を共有している」場合が多いから。
実際のご先祖さまの数は、この計算より少ないとされています。
それでも、
「わたしが生まれるまでに存在していたご先祖さまの数」は、
まさに無限大(∞)なのです。
わたしたちには、お父さんとお母さんがいます。
これは、誰にとっても 例外のない事実。
そしてその関係を 一代ずつさかのぼっていくと、
わたしたちには、無限のご先祖さまが存在していた。
これは、疑いようのない 真実。
その無限のご先祖さまのうち、
たったひとりでも欠けてしまったら、
今の「わたし」は、 存在していなかった。
そのことに気がついたとき、
わたしが「わたし」として、今ここにいることは、奇跡でしかない!
と、心から思えたのです。
無限のご先祖さまが、
実際に 生きてくれていて、
祈りを重ね、
命をつなぎ、
いまの「わたし」がここにいる。
そうやって
引き継がれたもの、生まれ持った性質、
DNA、60兆個の細胞、からだ、骨格、肌の色…
まとまりにくい髪の毛も、
ぺちゃんこな鼻も、
そばかすも……
ご先祖さまからの贈り物。
全部、全部、愛おしい。
わたしは、ご先祖さまがつくってくれた 最高傑作だったんだ!
わたしは、わたしのままでいいんだ!!!
そう思ったら、
あたたかな涙が とめどなく流れてきました。
他の誰かになんて
なろうとしなくていい。
大きく見せなくていい。
「何者かにならなきゃ、認められない。」
「このままじゃ、愛してもらえない。」
と、信じてやまなかった わたしにとって、
無限のご先祖さまの、無限の愛に気づいたことで、
はじめて、
本当の意味で
自分で自分を認めてあげることができた気がしたのです。
わたしは、
たくさんの命のつながりの果てに生まれた、
たったひとつの、かけがえのない存在。
なのだと ──
「ありがたい」って、「有ることが難しい」と書きますよね。
わたしたちが 今 ここに 生きていることは、まさに
「有ることが 難しい」= 奇跡。
有り難い。
心の底から、畏敬の念が湧き上がってきました。
わたしたちが、自分の子や孫の幸せを願うように、
きっとご先祖さまたちも、
子孫であるわたしたちの幸せを祈ってくれていたのだろうと
思いを馳せ──
そんな 無限の祈りの先にいる「わたし」という存在を、
もっと もっと 大切にしたいと、
思うようになったのです。
そして、
みんな、たどれば ひとつのルーツに還る。
みんな繋がっている。
この世界は、壮大で、美しい ──
そのことに、ただただ 圧倒されました。
「ああ、お兄ちゃんは大丈夫。∞のご先祖さまが守ってくれている!」
そう信じることができました。
おかげさまで兄の手術は成功し、順調に回復に向かっています。
もし今、
「このままの自分じゃダメだ」と感じていたり、
「もっとがんばらなきゃ」と苦しくなっていたりしたら──
ちょっと立ち止まって、思い出してみてください。
あなたにも、無限のご先祖さまがいて、
その すべての命がつながって、
いま、ここに「あなた」が生きているということ。
たったひとりでも欠けていたら、
あなたはこの世界に存在していなかった。
それって、ものすごい奇跡じゃないですか?
大丈夫。
あなたのままで、ちゃんと愛されてる。
「あなたは、あなたのままでいい。」
どうか今日も、自分をやさしく抱きしめるように過ごしてください。
この世界の奇跡として、生まれてきてくれてありがとう。

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